<< July 2020 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
amazon
楽天ブックス他
楽天ほか

ぴんとこな 第1話 その1

第1話 その1



河村恭之助(玉森裕太)は歌舞伎の名門に生まれながら、
ヤル気も実力もいまひとつ。父・世左衛門(岸谷五朗)にも認められず
投げやりな日々を送っていた。ところがある日、歌舞伎が大好きな
千葉あやめ(川島海荷)と出会ったことで世界は一変!!
恭之助はたちまち恋に落ちる…!だがあやめには、既に思いを寄せる
相手がいた。それは歌舞伎と無縁の家に生まれながら、実力で
成り上がろうとする野心家の澤山一弥(中山優馬)で…!?




「歌舞伎 それは江戸時代に大成し

 現代へと受け継がれてきた

 日本を代表する伝統芸能でございます。

 この三つの要素が融合した舞台で

 繰り広げられますのは

 男女の恋や親子の情愛

 また 怒りや憎しみの 

 感情が生み出す悲劇など

 いつの世も変わらぬ人間ドラマでございます。

 こちらの演目は

 演じておりますのは

 木嶋屋の御曹司 河村恭之助」


舞台に立つ恭之助。

「さすが名門木嶋屋の御曹司華があるわね」

「声よし 顔よし 姿よし 

 高校生にして歌舞伎界のプリンス 

ああ もう食べちゃいたい」

女性に大人気。

「築き上げられた伝統を

 次の時代へと引き継ぐために

 役者達は日々精進し

 互いに切磋琢磨しております」


「ほッ」

「木嶋屋!」」

ポーズをきめますが 実は

「腹減った〜」

とつぶやいているおぼっちゃまに
父もがっかりしている様子。

「一部 例外もおりますが

 男らしさと

 憎みきれない色気を併せ持つ

 二枚目の役柄を

 この歌舞伎の世界では

 「ぴんとこな」と申します。

 これから始まりますお話は

 若き二人の歌舞伎役者が

 ある時は芸を競い

 またある時は恋のライバルとして

 熱く激しく火花を散らす物語

 どうぞ心ゆくまで

 ご堪能くださいませ」


舞台のあと廊下で父とばったり。

「げッ 親父」

「恭之助 どこへ行くつもりだ」

「友達 待たせてますんで お疲れしたッ」

「待ちなさい 恭之助!」

さっさとでていく恭之助。

「どうせ いつもの説教だろ」

その恭之助に声をかける一弥。

「恭之助さん お疲れさまでした」

「ごめん 誰だっけ?」

「澤山一弥と申します」

「あッ そう お疲れ〜」

ろくに目もとめない恭之助を
じっとみている一弥。

外へでると女の子がいっぱい出待ちしていました。

「あッ 恭様〜」「キャーッ!」

いっしょにいる春彦。

「相変わらず すごい人気だな」

「お嬢さん方 これから みんなでパーッと騒ぎに

 まいりましょうか」

「キャーッ」

そこにでてきたあやめ。

「うちの制服…

 君 俺と同じ学校だよね

 なるほど制服でアピールってこと?

 考えたね〜

 そんなに緊張しなくていいよ」

あやめの肩を抱くと女の子たちから悲鳴。

「名前は?」

するとあやめ、

「おりゃ〜ッ!」

いきなりおぼっちゃまを投げ飛ばした!!

何?牧野つくし系?!w


「最低!

 何なのよ 

 あの寝ぼけた猫みたいな鏡獅子は

 大好きな演目だから

 メチャメチャ楽しみにしてたのに

 必死にバイトして チケット買ったのに

 あんなの鏡獅子じゃない 

 金返せ! 時間返せ!

 舞台の真ん中 立つんだったら本気でやれ!

 客ナメんな バカ野郎!」


「えッ マジ…」

おぼっちゃまポカーン。

「何だ あれ…」

「おい 大丈夫? 恭ちゃん」

「あの野郎 ふざけやがって

 俺を誰だと思ってんだ!クソー」

「あの子 見覚えあんだけどな」

怒って帰るあやめ。

「ああ もう ムカつく ムカつく…ムカつく」

たちどまって歌舞伎役者のかっこうをした
ヒロ君といっしょにとった写真をみつめるあやめ。

「ヒロ君」

そのヒロくんはさっきの一弥。
客席にすわっていました。

「一弥 何やってんだ 帰るぞ」

「はい」

「あんな踊りでファンが大喜びすんだから

 御曹司様は楽で うらやましいよ。

 俺達 養成所上がりは

 台詞一つもらうのにも 必死だってのに。

 この ちっぽけな劇場でさえ

  あの舞台の真ん中に立てんのは一握り

  ましてやあの歌舞伎座で主役だなんて

 俺達には夢のまた夢だ」

「僕は行きますよ」

「今までたどり着いたやつは いねえよ」

「でも 不可能じゃない

 いつの日か必ず

 僕は立ってみせる

 夢の舞台の真ん中に」


一弥がまじめに歌舞伎のてっぺんを目指しているのに
お坊ちゃまは女の子を大勢ひきつれてプール遊び。

「ヒャッホー!」

「恭ちゃん 恭ちゃん 大丈夫?」

「何が?」

「そろそろ 家帰って今日の反省会しないと

 また父さんに怒鳴られんじゃ?」

「そんなの明日でいいよ 俺 御曹司だぞ

 舞台に出てさえいりゃ 出来なんて関係ねえんだから」

「そういうもん?」

「ああ  どうせ俺の芸なんて

 誰も見ちゃいねえし」

といいながらさっきあやめに言われた言葉を思い出しました。

 《何なのよ あの寝ぼけた猫みたいな鏡獅子は》
 《あんなの鏡獅子じゃない》
  《客ナメんな バカ野郎!》

「恭ちゃん」

「よし 今日は とことん遊ぶぞ

 行こう」

「 行こ行こ」

帰宅して当然父に怒られました。

「お前は何を考えてるんだ!

 こんな時間まで稽古もせずに ほっつき歩いて」

「いいじゃんもう舞台 終わったんだから」

「ふざけるな! あんな情けない鏡獅子をお客様にお見せして

 恥ずかしくないのか?

 こんな甘ったれた態度がいつまでも通用すると思うほど

 お前もバカじゃなかろう

 大体 他に何の取り柄もないお前が

 芸を磨かないでどうやって生きていくつもりだ」

「他に取り柄がない?

 そりゃそうだよ 歌舞伎しかやらされてねえんだから
 
 好きでこの家に生まれたわけじゃねえし

 跡を継ぎたいって頼んだ覚えもない

 気づいた時には もうこの道を歩かされてた

 他の選択肢なんてなかった

 大根だ 七光りだって叩かれて

 でも しょうがねえからしたくもねえのに稽古もしてきた

 何で説教ばっかされなきゃいけねえんだ

 冗談じゃねえよ!

 俺がやめてもいいのか?

 御曹司がやめたなんてことになったら大変だぞ

 いいのかよ!」

おぼっちゃまは反抗期だったか。

「バカ者!何を いつまでも

 子供じみたことを言ってるんだ

 お前は いつもそうだ

 向き合うべきことから目をそらし

 自分で乗り越えようともせず

 うまくいかなければ人のせいにする

  これ以上 私を失望させるな」

「出来の悪い息子で悪かったな

  けどこっちだって うんざりなんだ

 名門だか何だか知らねえけど

  この家と自分のメンツ

 守ることしか頭にねえ親父なんか

 うんざりなんだよ!」


廊下できいていた家政婦のシズさん。

「坊ちゃん ちょっと お口が過ぎますよ」

「あっちだって言いたい放題じゃねえか」

「旦那様は 坊ちゃんのことを思って」

「俺じゃなくて歌舞伎だろ

 あの人は昔から

 家族のことなんてどうでもいいんだから」


まだまだ子どもっぽい考え・・。

「若旦那 今度の若手研修公演の稽古

 明日の4時からです」

「ああ」

「うちの旦那様が世話役ですから サボっちゃダメですよ」

「また旦那様とケンカですか?」

「う〜ん」

あんな息子をもって胃が痛むらしい父。

「また痛むんですか?胃薬 飲みます?」

「いや 大丈夫です」

「坊ちゃんも 小さい時は「歌舞伎 大好き」って

 熱心に お稽古してましたのにね」

「子供は背負ったものの大きさなど

 分かりませんからね

 長い歴史の中で 江戸の昔から

  ご先祖が大事に積み上げてきた伝統を

 我々が潰すわけにはいかんのです

 あんなバカ息子一人の

 ワガママのせいで」


回想

 《羽を開くところが いつも遅れるな。もっと 精進しなさい》

 《恭之助 お母さんのこと頼んだぞ》

 《お父さん 行っちゃうの?》

 《舞台に穴は開けられない》

  《ヤダよお母さんと一緒にいてあげて》

 《私には 果たさなきゃならない責任がある》

母の危篤のときも舞台にむかったらしい。

春彦と恭之助。

「次は それやるんだ」

「ああ」

「かめいてほん ちゅうしんぞう…」

「仮名手本忠臣蔵」 「道行旅路の花聟」

「ああ… て どんな話?」

「うん?」

「これは…」

「旅路を行く男と女 その名を…

 勘平は江戸でお殿様の

 一大事に立ち会えなかったため

 侍らしく 切腹して責任を取ろうと致します。

 しかし 恋人のお軽の愛情あふれる言葉によって

 二人で強く生きていくことを決意するのでした。

 お軽の実家京都・山崎の里を目指して

 手に手をとって旅立つ姿が感動を呼ぶ

 愛の物語です」

「へえ〜 じゃ恭ちゃんは その勘平役だ」

「まあな 今日から稽古なんだけどさ」

「大変だね 「御曹司」様は」

「まあな」

学校で畑仕事をしているあやめ。

「ちょっと おばさん 土 かかったんだけど」

「おばさん?私 まだ17なんだけど…」

「あッ」

あやめをみつけてびっくりの恭之助。

「お前 昨日の

  おい シカトすんなよ

 昨日は よくも恥かかせてくれたな

 寝ぼけた猫だの何だのボロクソ言いやがって」

「だって ホントのことだもん」

「はッ? お前みたいなド素人に何が分かんだよ」

「分かるよ 二枚扇は落としそうでヒヤヒヤしたし

 獅子頭 持ってからは早く引っ込みすぎ 稽古不足がバレバレ」

「お前 何様だよ 偉そうに」

「何よ私 何か間違ったこと言ってる?」

「春彦 もう ほっとけ

 いるんだよこういう知ったかぶるやつ

 もう めんどくせえから行こうぜ」

「それ」

「はッ?」

「あなたの芸は

 そうやって逃げてる芸

 あなたの芸には

  見る人の胸に響くもんなんて何もなかった」


辛らつ。

「おい いい加減に…」

「あれじゃ 木嶋屋の看板が泣くよ」

「うるせえよ 何で お前に

 そこまで言われなきゃいけねえんだよ」

「歌舞伎が大好きだから腹が立つのよ

 あんな鏡獅子ならヒロ君の方が絶対…」


「ヒロ君?何だ それ

 好きな役者でもいんのかよ」

「いるよ

 今は無名だけど

 絶対にすごい歌舞伎役者になるから

 河村君なんかより ず〜っと」

そこへ友達の千晶がやってきました。

「あやめバイト遅れちゃうよ」

「うん」

千晶は恭之助のファンらしい。

「恭様 いつも応援してます
 
 …て 友達?」

「違う 行こう」

「恭様 また」

あやめはいってしまいました。

「まったく 何なんだよ ムカつくな」

「あいつ 3−Cの千葉あやめだ」

「千葉あやめ?」

「特待生なんだけど

 父親が借金残して

  失踪して超貧乏の一人暮らしでさ

  だからここで野菜とか作ってんだってさ」

「へえ〜」

「恭ちゃん あんなやつの言うこと気にすんなよ」

「するわけねえだろ アホらし」

稽古にいくと完二郎がいました。

「来たな サボりの常習犯」

「完二郎兄さん」

「今回はサボんなよ。

 足 引っ張ったら承知しねえぞ」

「痛い痛い… 分かってます」

一弥もいました。

「誰?」

「やっぱ気になるか

 轟屋さんところの澤山一弥だ

 一弥 轟屋さんの頼みで今回 役をつけたらしいけど

 ちょっとただ者じゃねえって感じだろ

 お前と同い年だとよ」

「同い年?」

松吉さんもいました。

「はい おはよう」「おはよう」

「おう 君が一弥か

 聞いてるぞ 色んな芝居を熱心に勉強してるそうだね」

「はい」

「久しぶりに養成所から逸材が出たと専らの評判だ」

「ありがとうございます」

「期待してるぞ 頑張りなさい」

「お願いいたします」

「うむ」

「振りも台詞も入ってるだろうな

 お客様の期待に応えられるよう

 各自しっかり稽古に励むように」

「はいッ」

「中には

 意識が足りない者もいるようだからな」

おぼっちゃまのこと・・。

「よくよく思えば 後先のわきまえもなく

 ここまでは来たれども 

 所詮 生きてはいられぬ身の上…」

「違う!それじゃ

 ただ台詞 言ってるだけじゃねえか

 はい もう一遍

 お前 やっぱサボってたな

 台詞の息遣いもうちょっと工夫してみ」

「はい

 よくよく思えば 後先のわきまえもなく

 ここまでは来たれども 所詮 生きてはいられぬ…」

「はい ちょっと待て

  もう一遍」

何度もやりなおし。

「あんな大根でも 

 御曹司だったら主役 張れんだから

 やってらんねえよ」


「結局 みんな名門ってブランドに弱いんだ

 バッグだって何だって

 ブランド物だったら何でもいいんだよ

 無名の俺らは一生店の片隅でホコリかぶるってか」

愚痴をいう人たちを鼻で笑う一弥。

「 フッ」

「何だよ」

「くだらない」

「はッ?」

「一生 ホコリをかぶったままなのは

 そのバッグに 

 客が手に取るほどの

 魅力がなかっただけでしょう」


「何だ お前」

まだ怒られている恭之助。

「だから 違うっつってんだよ

 そんな芝居で劇場の隅々まで

 勘平の思いを届けられんのか!何も伝わってこないよ

 はい もう一遍」

「大丈夫か?」

「お前 基本の発声さえできてないじゃないか

 日頃の鍛錬が足りないからだ」

「すいません」

「いいか 多少 人気があるからといって勘違いするなよ

 芸のない役者など

 いずれ飽きられる 

 お前は名門・木嶋屋の名跡を継ぐんだろ

 歌舞伎界の面汚しと言われたくなければ

 もっと性根を据えて稽古しなさい

 400年脈々と受け継がれてきた伝統に

 傷をつけることは許さんぞ!」

「今日はここまで」

「次回までには 少しは稽古してくるように」

「はい」

「ありがとうございました」

「お疲れさま」

「お疲れさまでした」

そのあとまた恭之助に声をかける一弥。

「恭之助さん 澤山一弥です

 花四天の役を頂きました

 よろしくお願いいたします」

「おう よろしく。君 結構やるじゃん」

「ありがとうございます」

「確か 鏡獅子の時 楽屋で挨拶してくれたよね」

「はい 恭之助さんの鏡獅子拝見しました」

「あッ そう」

「でも とてもガッカリしました。

 子供の頃 歌舞伎座の舞台で

 あなたを見たことがあるんです

 子供心に「すごい」と

 衝撃を受けたのを今でも よく覚えています

 だけど 今の恭之助さんには

 正直 何も感じません

 失礼します。」


そして松吉に声をかけました。

「すみません お願いがあるんですが」

「何かな?」

「もう少しだけ

 いい役をつけてはいただけませんでしょうか?

 無礼なことを言ってるのは十分 分かっております

 ですが チャンスを頂きたいんです

 お願いします」

なかなかの野心家。

「確かに君は いいものを持っている」

「では…」

「分をわきまえなさい

 どんな世界にも

 秩序というものがある

 先代達が築き上げてきたものを

 我々は守らなければならないんだ

 地道に一歩ずつ努力しなさい

 もちろんそれは君に限ったことではない

 名門の名跡を継ぐ者とて同じことだ

 家の名前で お客を呼べるほどこの世界は

 甘くはないからな」


一弥が外にでると優奈が待っていました。

「弘樹」

「お嬢さん」

「迎えに来ちゃった」

「ありがとうございます

 でも 帰りが遅くなったら旦那様に怒られませんか」

「大丈夫 みんな娘になんて あんまり興味ないし」

「そんなことは…」

「近くにスイーツのおいしいお店があるの 行こう」

「はい」

二人をみかける完二郎と恭之助。

「あの子 確か轟屋のお嬢さんだな」

「へえ〜 つきあってんすかね」

「なるほどね」

「えッ?」

「今日のあいつ見ただろ。

 松吉さんに あそこまで言うとは

 何が何でも上り詰めてやるっていう執念

 ハンパじゃねえぞ! お前」

「それと あの子と何の関係が…」

「バカなのかな 君はバカなのかな

 いいか あの子は轟屋の一人娘だ

 轟屋には跡継ぎがいない」

「そっか つまり…」

「彼女と結婚して婿養子に入れば

 養成所出身の一弥でも

 轟屋の名跡を継げるってわけだ」


「あいつが名跡 継げたからって

 一流になれるとは限りませんよ」

「もちろん」

「怖いのか?い 一弥が」

「怖い? そんなわけないでしょ

 俺が本気出せば あんなやつ…」

「早く本気 出してくんないかな!

 俺もそう気の長い方じゃないんでね

 いつまでも足踏みしてる場合じゃねえぞ 恭之助

 お前だって いずれは

 歌舞伎座の舞台で主役 張りてえんだろ

 みんな命懸けで そこ目指してんだ

 多分 あいつもな」

一弥に言われた言葉を思い出しました。

《今の恭之助さんには 正直 何も感じません》

「クソッ」

あやめはバイト中。

「ありがとうございました。また お待ちしておりま〜す」

「片そっか」

「うん」

「よし」

バイト後は千晶と食事。
あやめのファイルの写真をみせてもらう千晶。

「しかしあやめは すごいよね

 小学校の時の初恋の人を思い続けるなんて

 私だったら絶対 無理」

「ヒロ君を歌舞伎に誘ったの私だから

  ずっと応援するって決めてるの

 ヒロ君の一弥という芸名はね

 私がつけたんだ」


回想

 《1年生の歓迎会は 歌舞伎をやることに決まりました》

 《え〜ッ》

 《主役は 本郷弘樹君に決めたから》

 《僕? 何で》

 《顔が 歌舞伎役者っぽいから》

それはww

  《いや そんなこと言われても…》

  《へえ〜 ヒロ君 できないんだ》

 しばらくふたりでみつめあってヒロ君が決心。

 《で できるよ 歌舞伎くらい》

 《演目は鏡獅子だよ》

  《鏡獅子?》

 《うん 弥生ちゃんって女の子が 獅子の精に変身するお話》

 《変身?》

 あやめの父は忙しい。

  《お父さん 今日も遅くなる? そっか。
  分かったお仕事 頑張ってね》

 《あやめちゃん お母さんも いないんだよね
  いつも ひとりで 平気なの?》

 《平気 平気 慣れてるから》

 《それより 私ね
 
  ヒロ君の芸名 考えてきたの

 一番の「一」と 弥生の「弥」で 一弥》


 《一弥・・》

 《ヒロ君 いっちばんカッコイイから》

 《あやめちゃん》

 《うん?》

 《僕 頑張るよ あやめちゃんのために頑張る》

そしてがんばって演じた一弥。

 《すごい…》

回想おわり。

「あの時からずっと

 私にとっての一番はヒロ君なの」

「けどそんなに思ってるんなら

 会って ちゃんと話せばいいのに

 あっちは あやめが舞台見に来てるのことも知らないんでしょ」

「今は まだ 会いに行っちゃいけないの」

「どうして?」

「ヒロ君は夢に向かってる途中だから

 彼がいつか夢をかなえたら 

 必ず会える日が来る

  だからその日まで私も頑張ろうって」


「そっか」

「うん」

「ヒロ君もきっとそう思ってくれてると思う」

一弥と優奈は腕を組んで歩いていました。

「弘樹ってホントに真面目だよね

 ほっといたらずっと お稽古してるし」

「早く一人前の役者になりたいんです」

「恭之助さんみたいに

 女の子達とチャラチャラ遊んだりしないから

 私は安心だけど」

「僕には お嬢さんがいますから」

家に戻ると優奈の父 咲五郎から怒られました。

「もっと いい役を欲しいと言ったそうだな

 出過ぎたまねをしおって」

「申し訳ありませんでした」

母がフォロー。

「でも その向上心が弘樹の強みでもあるわよね」

「確かに そういう強い気持ちも大事だがな

 まあ 焦るないずれ 必ずチャンスは来る

 この轟屋の行く末も含めて

 私も できるだけのことはするつもりだ」

「ありがとうございます」

父とあやめや一弥から
言われた言葉を思い出しながら
歩いている恭之助。

 《お前はいつもそうだ
 向き合うべきことから目をそらし
 《自分で乗り越えようとせず…》
 《あなたの芸はそうやって逃げてる芸》
 《今の恭之助さんには正直 何も感じません》
 《これ以上私を失望させるな》
 
「クソッ」

そこへ前から自転車に乗ったあやめが。

「どいて〜ッ!どいて!」

「千葉?」

「ブレーキが キャーッ!」

「やっべ」

自転車をとめてくれた恭之助。
ふたりで倒れてしまいました。

「死んだ?天国?

 うわッ!よかった 生きてる」

目をあけたあやめは目の前で
倒れている恭之助に気づきました。

「河村君?ねえ 大丈夫?」

その場からかけだすあやめをみる恭之助。

「置き去りかよ

 いつだって

 結局俺は ひとりなんだ」

回想
 
 《まだまだだ》
 《お前は河村家の跡継ぎだ》
 《普通にできるだけじゃダメなんだ》
  《もっともっと精進しなければな》

「必死でやっても 背を向けられて

 いつだって 独りぼっちで」

あやめがハンカチを額にあててくれました。

「よかった 目開けてくれて

 私 携帯電話なくて公衆電話もなくて

 すごい時間かかっちゃったの ごめんね

 もうすぐ救急車 来ると思うから頑張って

 私のために こんな…

 ホントに ホントにごめん

 私 大通り行って救急車 誘導してくる」

「そばにいてくれ」

「えッ?」

「ひとりに しないでくれ

 頼む」

「は はい」

あやめを抱きしめる恭之助。

「河村君?河村君!河村君?」

病院。

「ごめん 寝ちゃった 大丈夫?」

「俺…」

「検査したけど異常ないみたいだから

 帰っても平気だって」

「ずっと付いててくれたのか?」

「うん 家の連絡先とか知らないし」

「そっか  ありがとう」

「ううん こっちこそ助けてくれてありがとう

 おかげで私はピンピンしてる

けど まいったな  あの自転車には

 廃品回収のおじさんに もらったんだけどさ」

「お前さひとりで暮らしてんだって?」

「ああ うん」

「何で いつも そんな元気なの?」

「えッ 何でって?」

「 寂しかったりしねえの?」

「別に 普通に楽しいし」

「そっか」

「そりゃあ ちょっと貧乏だけど

 学校 行けて友達がいて ご飯食べれて

 それに私には大好きな歌舞伎があるから

 うん どうかした?」

「別に」

「そっか 河村君は意外と寂しがり屋だもんね」

「えッ?」

「 「ひとりにしないでくれ」 だって!」

「おい! それ誰にも言うなよ 河村恭之助のブランドが…」

「分かった分かった

  助けてもらったお礼に秘密にしといてあげる

 じゃあ 帰ろっか」

押し花のしおりをみつけました。

「あッ それ 私の

 よかった 大事なもんなんだ

 ありがとう」

「それ 押し花?」

「うん ナデシコ

 ホントにごめんね 舞台あるのに」
 
「大丈夫だよ

 それに どうせ俺の芸なんか

 誰も見ちゃいねえし」

「何で そんなこと言うの 何かあった?」

「俺のこと さんざんバカにしたやつに

 言われたくねえっつうの」

「ごめん

 でも みんなが

 河村恭之助を見たくなる気持ちは分かった

 何ていうか 河村君には華がある」


「華?」

「この人が本気で演じたら

 きっと すごいものに

 なるんだろうなって思ったもん

 他の人には まねできない

 河村恭之助にしかない華」


「まあな

 そりゃ何てったって御曹司ですから

 何だよ」

「いや 河村君って結構単純?」

「悪かったな」

「河村君は

 必ず歌舞伎界を

 引っ張っていく人になるよ」


おぼっちゃま 恋におちる・・!

「じゃ ここで」

「家まで送るよ」

「えッ…ホントに平気だから またね」

あやめに言われた言葉が嬉しい恭之助。

 《河村君は》
《必ず歌舞伎界を引っ張っていく人になるよ》

「あいつ 何だかんだ言って

 結局 俺に気があんじゃねえの?

 まったく

 素直じゃねえんだから」

妄想突入

《河村君意地悪ばっかり言ってごめんね》
《あなたがあんまり女の子にモテるから》
《ヤキモチ やいてたの》
《これからは私だけを見て》
《「あ・や・め」って呼んで》

「あやめ〜!

 あやめ〜!」


家で叫ぶバカ坊ちゃん。丸聞こえw

「あのバカ息子め」

「「あやめ」って言いましたね」

「さあ」

「彼女ですかね?」

「さあ?」

「坊ちゃん モテるのに

 一向に彼女ができないのよねえ

 奥手すぎるのも どうですかね」

「奥手で結構

 今は稽古に集中してもらわないと

 この上 恋愛なんかされた日にはますます胃が痛くなる」

「でも私の勘では あれは

 恋に飢えたオオカミの雄たけびです」

「さあ?」

あやめは一弥のことを思い出していました。

《僕 一番の歌舞伎役者になる》
《そしたらあやめちゃんを迎えに行くよ》
《ホント?》
《うん 約束する》

「会いたいよ ヒロ君」

翌日。

「恭ちゃん おはよう」

「おう」

「昨日の稽古はどうだった って それ どうしたの?」

「ちょっとな」

「何か いいことでもあったのか?」

「別にねえよ」

「ふ〜ん

  この女の人 男が演じてんだよね」

「当たり前だろ歌舞伎は男しか出ねえし」

「恭ちゃん 女の役やらないの?」

「まあ 基本は立役だからな」

「立役?」

「男を演じる役者は立役

 女を演じる役者は女形だって

 前にも教えたろうが」

「そうだっけ」

「春彦 俺

 今日から稽古に本腰 入れっから」


「えッ?」

「まあ 歌舞伎界を

 引っ張ってく人間としては 的な?」


本当に単純。

「恭様 おはよう」

「ヤダ ケガしたの?」

「名誉の負傷ってやつ?」

「何それ 意味 分かんない」

「意味 分かんな〜い」

一弥と咲き五郎。

「これから木嶋屋さんに

 お稽古に行きたいと思ってるんですが

 お願いしていただけませんでしょうか」

「この公演は世左衛門さんが世話役だからな

 見ていただくのもいいだろう」

「はい」

「一弥 お前は歌舞伎のために

 高校も行かず ひたすら稽古を積み

 他の誰よりも努力してきた

 そのことはこの私が一番よく知っている

 この世界は努力しても

 必ずしも報われるわけではない

 だが固い扉をこじ開けられるのは努力した人間だけだ

 本当の勝負は これからだぞ」

「はい」

水やりをしているあやめ。

「みんな元気に育ってね

 よし バイトだ バイト」

近くで女子がカツアゲしている現場を発見。

「ほら さっさと出せよ 2万でいいからさ早く」

「早くしろよ」「早く出せって あんじゃん」

からまれているのは優奈。
助けにはいるあやめ。

「あんた達 何やってんの!」

「はッ?」

「渡すことないよ」

「何すんだよ!」

「そんなに お金が欲しけりゃ
 
 バイトでもして自分で稼げば?」

「こいつ知ってる

 貧乏すぎて学校で畑作ってるやつだよ」

「作業服とかダサすぎて やばい」

「あんた達のやってることの方がよっぽどダサいと思うけど

  これって立派な恐喝だよね

 何なら 警察行く?」

「超マジなんですけど」

「バッカじゃない 行くよ」

女子たちはひきあげていきました。

「ありがとうございました」

「こういうこと よくあるの?」

「たまに」

「何年生?」

「2年です」

「先生とか親に相談した?」

「騒いだらもっと いじめられそうで」

「そっか」

「いいんです もう慣れてるから」

「ダメだよ

 あなたの親御さんが汗水たらして働いたお金でしょ

 あんなやつらに渡していいわけないじゃん

 もっと強くならなきゃ」

「どうすれば 強くなれるんですか?」

「えッ?う〜ん

 私は くじけそうな時は

 大切な人のこと 考えてるかな」


「大切な人」

「うん その人を

 悲しませないために頑張ろうって

 そしたら 力が超 湧いてくるよ

 て言っても 実は

 もう何年も会ってないんだけどね」


「そうなんですか」

「けど 大事っていう気持ちは ずっと変わらないから

  あッ バイト行かなきゃ

 じゃあね 負けちゃダメだよ!」

河村家をたずねる一弥。

「はい」

「澤山一弥です

 世左衛門さんにお稽古をお願いしたく参りました」

あやめを待っていた恭之助。

「よッ」

「ああ 河村君

 ケガの具合はどう?」

「大したことねえよ

「よかった じゃあね」

「ちょ ちょい待てって

 これ

 もし来たけりゃチケット取ってやってもいいぞ」

歌舞伎のチラシをみせる恭之助。
そこに一弥の名をみつけたあやめ。

「行きたい!」

「じゃあ 取ってやるよ」

「ありがとう 嬉しい」

「お前さ 何でそんな歌舞伎 好きなの?」

「お母さんがね  好きだったんだ

 6歳の時に病気で死んじゃったんだけど

 それまではよく連れてってくれてたの

 オシャレして劇場に入ると

 何だかワクワクして

 あの華やかな舞台がおとぎの国みたいに思えて

 気づいたらハマってた」

「そっか」

「うん じゃあ 私 バイトだからチケットよろしくね」

「バイト 毎日やってんの?」

「うん」

「たまには息抜きした方が…」

「別に息詰まってないし」

帰ろうとするあやめをとめる恭之助。

「何?」

「いや その…そうだ 稽古」

「えッ?」

「俺んちに稽古 見に来いよ」

「俺んちって

 名門・木嶋屋の稽古場に入らせてくれるってこと?」

「おう」

「行く行く 行きます お願いします」

「お おう じゃあ 行きますか」

「行く!」

「よし」

「大丈夫?いきなりだけど」

「大丈夫だよ 俺 御曹司だぞ」

「え〜ッ 楽しみ」

二人の後姿をみおくる春彦。

「そういうことか」

稽古をみてもらった一弥。

「本日は お時間を頂戴し

 誠にありがとうございます

  ぶしつけながら 一つ お願いがございます」

「うん?」

「今日は 忠臣蔵道行の主役である

 お軽の芝居を見ていただきたいんです」

「しかし それは完二郎の役だろう」

「身の程知らずは承知の上です

 それでも私の今の力が どの程度のものか

 どうしても見ていただきたいんです」

「お願いします!」

「分かった では 見せてもらおう」

「ありがとうございます」

そのころ、あやめたちも家に到着。

「すごッ さすが超名門・木嶋屋」

「まあまあ これぐらいで騒ぐなよ

 今日はすっげえもん見してやるからさ」

「押忍!」

「稽古場 入るぞ 準備いいか?」

「押忍!」

「御曹司の実力 見せてやる…」

中で稽古をしている一弥をみたあやめ。

「ヒロ君」

「えッ?」

あやめはでていき追っていく恭之助。

「おい!」

一弥は平然。

「どうした?」

「何でもありません

 それより いかがでしたでしょうか 私のお軽は」

あやめを追いかけ腕をつかむ恭之助。

「おい 千葉 待てよ

 さっき… ヒロ君って言ったよな

 お前が言ってた好きな役者って

 一弥のことか?」


「うん 本郷弘樹君

 小学校の同級生なんだ」


「ただの同級生にしちゃ派手なリアクションだな

 まさか 初恋の相手とか?」

「まあ…」

「あッ そうなんだ

  えッ まさか まさか

 ずっと思い続けてるとかじゃねえよな?」

「まさか! ちょっとビックリしちゃっただけ」

「ふ〜ん」

「小学校の時にね 約束したんだ

 一番の歌舞伎役者になるって

 まあ 向こうは もう とっくに忘れてると思うけど」

「でも お前は追っかけてんだろ?」

「それは…大好きな歌舞伎を幼なじみがやってるから

 応援してるってだけだよ

 私 やっぱりバイト行くね

 お稽古場また今度 ゆっくり見して

 じゃあね」

恭之助とわかれるあやめ。

「ヒロ君…」

家に戻った恭之助。

「一弥は?」

「帰った

なかなかだったよ 一弥の芝居は

 お前と同じ年らしいが

 久しぶりに楽しみな役者に出会った

 しかも 完二郎がやる役をやってみせるとは

 大した野心家だ

  あの男ならいずれ 大成するかもしれんな

  お前も くれぐれも精進しろよ 恭之助」

回想

《いかがでしたでしょうか?私のお軽は》
《君の年齢を考えれば》
《技術的には申し分ない》
《だが 高みを目指したいなら》
《技術を磨くだけではダメだ》
《はい》
《自分に足りないものは何なのか》
《その答えは 君自身で見つけていくしかない》
《厳しい道だとは思うが》
《楽しみにしているよ》
《ありがとうございました》

「一弥か…」

恭之助の父も一弥のことは気になったらしい。

あやめは眠れずにナデシコの押し花を
みつめていました。

「追いかけてもこなかった…

 ヒロ君…」

また回想。
バス停でバスを待つ幼いヒロくんとあやめ。

 《お父さんのお仕事が失敗したから
 遠くへ行かなきゃならないんだって
  私 いつも うちで独りぼっちだった
   けど…ヒロ君と歌舞伎の練習してた時
  寂しいの忘れられたの
  ありがとう

 《泣かないで あやめちゃん
  そうだ あやめちゃん僕 歌舞伎役者になるよ》

  《えッ?》
 
 《決めた僕  

  一番の歌舞伎役者になる!

  そしたらあやめちゃんを迎えに行くよ》


 《ホント?》
 
 《うん 約束する

  僕も頑張るから あやめちゃんも

  泣かないで頑張れ!》


 《うん!》

 マスコットを渡すあやめ。

  《これ 作ったの》

 《ありがとう》
  《ごめん 僕 何も…》

 そこに咲いていたなでしこの花を
 くれるヒロ君。

 《ありがとう》

「ヒロ君…

 私のこと忘れちゃったの?」

一弥の部屋にきた優奈。

「弘樹 聞いて」

「どうかしましたか?」

「今日ね また いつもの子達にお金取られそうになったの」

「やっぱり 旦那様達に話した方が…」

「それがね 今日は先輩が助けてくれたんだ」

「先輩?」

「初めて話したんだけど 

 女の先輩でね ガツンって言ってくれたの

 スカッとしちゃった」

「それはよかったですね」

「その先輩が言ってた

 くじけそうな時は大切な人のことを考えるんだって

 そしたら強くなれるって

 弘樹は どう?

 くじけそうな時 私のこと考える?」

「もちろん」

「ホントに?」

「本当ですよ」

「弘樹とはずっと一緒に暮らしてきて

 ホントの家族以上に思ってるの

 それなのに 時々…

 弘樹のこと何も知らない気がして怖くなる」

少しの間。

「別に 変な趣味とかありませんから」

「何? 変な趣味って

 弘樹

 ずっと一緒だよね?」

一弥によりそうお嬢様。

「はい」


その2に続く
(TBはそちらにおねがいします。)








2013.07.19 Friday 13:35 | comments(0) | - | 
<< Free 3Fr「理論のドルフィンキック!」 | main | ぴんとこな 第1話 その2 >>